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大迷惑!中国の“越境汚染”を斬る PM2.5の処方箋

Posted 2/8/2014

産経新聞 2月8日(土)13時0分配信

 中国では春節(旧正月、今年は1月31日)を祝う爆竹や花火の煙で、各地の大気汚染が一層悪化し、微小粒子状物質「PM2.5」を含む汚染の指数が北京市で最悪レベルに達したと伝えられた。記者が留学していたとき(2011年9月から1年間)も、重度のスモッグで、「澄み渡る青空」ならぬ「澄み渡らない白い空」が日々、北京を包んでいた印象だった。だが、その時に比べ、深刻さは格段に増しているようだ。これから春にかけて、日本は北西季節風の風下に立たされるため、越境汚染も気になるところ。長距離輸送されてくるPM2.5からいかに身を守るか。そして、中国の大気汚染をどうやって改善させるか。中国の環境保全に長年にわたって取り組み、PM2.5の越境汚染について研究している東海大学理学部化学科の関根嘉香教授(47)を訪ねた。

■PM2.5を「正しく怖がる」

 東海大学の湘南キャンパス(神奈川県平塚市)に向かったのは2月3日。ちょうどこの日も、長崎県や熊本県で、PM2.5の1日平均濃度が国の暫定指針値(大気1立方メートル当たり70マイクログラム)を超える可能性があるとして、住民に対する注意喚起がされていた。やはり中国からの越境汚染なのだろう。

 「そう考えて、ほぼ間違いないと思います」

 理学部化学科と聞くと、理系のお堅いイメージかもしれないが、関根教授はいたって物腰柔らか。終始笑顔を絶やさず、記者の質問に丁寧に答えてくれた。ただ、最初に示されたのは、PM2.5による越境汚染をめぐる昨今の報道や世論の受け止め方などに対するある種の「苦言」だった。

 「日本国内の反応はちょっと過剰な気がしますね。もう少し冷静に、科学的知見に基づいて、『正しく怖がる』必要がありますね」

 そもそもPM2.5は文字通り、大気中に浮遊する2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のことを指す。髪の毛の太さの30~40分の1と非常に小さいため、肺に入りやすく、呼吸器系や循環器系への影響が指摘されている。PM2.5という化学物質が単独で存在するのではない。実際は、石炭などを燃やしたときに出るすす(炭素)や、硫酸塩、硝酸塩、鉛、亜鉛などさまざまな物質からなる混合物で、こうした物質がそのまま風で運ばれてきたり、気体となったものが日本上空で化学反応したりして、西日本を中心にPM2.5の濃度に影響を及ぼしている。

 最近はたばこの煙に含まれるPM2.5が合わせて論じられる向きもあるが、関根教授はこれには批判的。「どちらも健康に害があるからといって、PM2.5を構成する物質や濃度レベルなど、さまざまな条件が異なる中国のPM2.5とたばこの煙を、短絡的に結びつけるのは、科学的な思慮に欠けます。私はたばこは吸いませんが、たばこの煙の害は別途研究すべきです」と語る。

 それではPM2.5を「正しく怖がる」、言い換えれば適切な対策とはこれいかに。濃度が高い際、外出や屋外での運動を控えるほか、屋内で空気清浄機を使うのも効果的ですか。

 「HEPAフィルター、半導体の製造工場で小さな粒子を徹底的に除去するために使われていたものですが、これを搭載した空気清浄機はPM2.5を除去するのに有効です。ただし、フィルターの掃除や交換の際に気をつけないと、非常に高い濃度のPM2.5を一気に吸い込みかねないので注意が必要です」

 うーん…。北京留学中は、部屋の空気清浄機のフィルターを掃除しながら、たっぷりとたまった埃に妙な満足感を味わっていたものだが、今思えば、まったく無防備だった…。せっかくの空気清浄機の働きも無駄にしかねないので、中国在住の方も含め、読者の皆さんには、フィルター掃除の時にご注意を。

■マスクで防御は有効?

 同様に北京では、よくマスクをつけて外出したが、旧来型の一般的なマスクは、PM2.5を通してしまうとの情報にも接した。マスクをつけながらも、実際はあまり意味がないのだろうなあ、と思っていたものだ。

 「確かに一般的なマスクはPM2.5を通してしまいますが、マスクをすることでのどが潤い、小さな粒子が凝集(まとまって塊になる)して肺まで行かなくなる可能性があるので、一定の効果が見込めます。それから、国の暫定指針値は、あくまで目安です。呼吸器疾患がある方やお年寄りなど、感受性が高い方は、より注意されるのがよいでしょう」

 日本は長年、官民を問わず、ハード、ソフトの両面で中国の環境改善に積極的に協力してきた経緯がある。日本の無償資金協力で北京市内に設立された中国環境省直属の「日中友好環境保全センター」などはその象徴だろう。にもかわらずどうして今日の中国の状況があるのか、不思議でならない。

 「長年、中国の環境保全に携わってきた者として、今の中国の大気汚染の状況を見るにつけ、悔しい思いがしてなりません。もちろん、予想を超えて中国の環境負荷が増大した面はありますが、1990年代にわれわれがイメージしていた2010年代半ばの中国の姿は、地球環境問題で世界をリードしていく国、というものでした。排出量が多い分だけ当然、責任伴うわけですから」

 地球環境問題で世界をリードする中国。ありし日の理想の姿と現実との間に横たわるギャップの大きさに、思わず記者は言葉を失ったが、関根教授はさらに続けた。

■北京五輪を契機に空気を汚し放題

 「1990年代から2000年代前半にかけて中国の大気汚染は全般的には改善傾向にありました。ところが、2008年の北京五輪を境にころりと変わってしまった。五輪で自信を持って、『これだけ力をつけたんだ』という考え方になって、対外的に協力するというよりは、『自分たちが支配していくんだ』という雰囲気に変わってしまった気がします。以前は中国の方と接すると真剣に学びたい姿勢がものすごくありました。ですが、最近は、『お金を出すから何とかしてくれ』という姿勢の方も見られます」

 1980年代末にいち早く東アジアの越境汚染の調査・研究に着手し、25年来、中国の環境保全活動に取り組んできた関根教授だけに、言葉には実感がこもっている。

 大気汚染にうんざりしている中国の友人からは、よく「日本も高度成長期には大気汚染があったじゃないか。経済発展の過程でどこの国も経験することだ」という意見をよく聞いた。だが、高度成長期の40~50年前ならいざ知らず、当時から比べ飛躍的に発展した環境技術を使えば、もっと大気汚染を軽減できるのではないだろうか。今日の大気汚染を半ば正当化しているようで、釈然としなかった。

 「おっしゃる通り。日本でも『昔は日本の大気汚染もひどかった』という人がいますが、例えば日本で公害病が発生したからといって、中国で同じ公害病の被害が出ていいはずがありません。それに、日本などの技術協力なしではとてもやっていけなかった90年代とは違い、今は中国人が自らの力で本当はやらなければならない。私は、今や中国は十分な大気汚染に対処できるだけの環境技術も財力もあると考えています。やろうと思えばもっとできるはずなんです」

■対策には中国の「やる気」が問題

 関根教授の言葉に次第に力がこもってきた。中国は今、大気汚染に対処できるだけの技術と財力が十分あるのだとすれば、あとは「やる気」の問題ということか。

 「そうなんです。中国の人々には、環境汚染が経済の停滞や人命の損失を招くという根本的な認識が、もう少し必要な気がします。日本は、このあたりの意識付けをする支援を行っていくべきだと思います」

 日本の環境協力は、もはや技術支援ではなく、中国人が自らの手で中国の環境問題を解決するよう意識変革を促す必要があるということなのだろう。それでは、環境改善に対する中国人の意識をどうやって高めるか。最後にその方策を聞いてみた。

 「なかなか大変だと思いますが、一つは越境汚染問題を『人間の安全保障』の観点から東アジアに住む人々の共通課題と考えて、国家間の利益はとりあえず脇におき、情報交換をしながら対策を講じていくこと。どちらかといえばこれは民の立場の交流で、われわれ研究者も学際的な取り組みを通じ、『環境改善が、経済発展にどう反映されるか』というモデルを提示することが大事だと思います」

 「いま一つは、越境汚染を国家の安全保障問題として位置づけること。この場合、『日中友好』などというソフトなことは言ってないで、『これだけ被害を受けたんだから、汚染者負担の原則で、それに応じた賠償・補償をしてください』と中国に迫るのも一つのやり方です。私自身は前者を志向しますが、今、現実問題を見たときに、日本政府として後者の態度を持つことも大事なんじゃないかと思います」

 関根教授のほとばしる熱い思いに、日中環境協力のパラダイム転換の必要性を強く感じた。それにしても中国各地で「澄み渡る青空」が日常化するはいつだろう。中国が、増やし続けてきた軍事費を大幅削減して、汚染対策に振り向ければ、周辺諸国の懸念は後退し、環境改善も促進されて一石二鳥なのに…。そんな独り言をつぶやきながら、キャンパスを後にした。(外信部記者 はらかわ・たかお)

 時々刻々と移り変わる東アジア情勢は、日本にどんな影響を与えるのか。調査、インタビューなど形式にこだわらず旬のテーマを探究します。(原川貴郎)